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隠遁者,野生人,蛮人

反文明的形象の系譜と近代

隠遁者,野生人,蛮人
著者 片岡 大右
ジャンル 哲学・思想
文学
出版年月日 2012/03/30
ISBN 9784862851284
判型・ページ数 菊判・448ページ
定価 本体7,000円+税
在庫 在庫あり
 

目次

序 論

第一部 〈啓蒙〉の転換期における宗教,詩学,文明:『キリスト教精髄』を中心に
第Ⅰ章 シャトーブリアン,パスカルの不実な弟子
1 パスカルに逆らうシャトーブリアン
 パスカル的心への回帰?/心の二つの秩序
2 啓示から夢想へ
反パスカル的連合:想像力と心/コンドルセにおける想像力と心の混同:理性との協調/山頂へ至る道の花々
3 〈世紀病〉を病むパスカル
「幻滅の花」/原罪の教義から病の詩学へ
第Ⅱ章 古典主義詩学とシャトーブリアン
1 音楽:恐れと哀れみの悲劇的装置
宗教と音楽:偶然的な結びつき/半ばの脱自:壊れた竪琴としての心/単調さの擁護:グレゴリオ聖歌,隠遁者と野生性/悲劇体験としての音楽
2 フランス古典主義詩学における美学的二重性
アリストテレス『詩学』におけるミメーシスとカタルシス/ミメーシスの覆いとそのカタルシス効果/模倣の存在論的劣等性/二重性と道徳性
3 シャトーブリアンにおける古典主義詩学の拡張
崇高の詩学? サント=ブーヴの誤解/古典主義詩学から〈キリスト教の詩学〉へ/傷口と鎮静剤/キリスト教の道徳的有用性:隠遁志願者の居場所を設けること
第Ⅲ章 〈啓蒙の世紀〉の宗教論とシャトーブリアン
1 『キリスト教精髄』第4 部:キリスト教の文明への奉仕
ローマ帝国解体期における蛮人の文明化/宣教:キリスト教共同体の世界化/哲学者たちの活用:教会を助けるヴォルテールとルソー/同時代の書評における第4部の好評
2 〈啓蒙〉と〈反啓蒙〉におけるキリスト教と文明
〈反啓蒙〉と文明の理念/哲学者たちによる宣教と修道生活/〈啓蒙の世紀〉における人口減少問題
3 人口減少問題と野生人
メーストル,マルサス,シャトーブリアン/野生人としての隠遁者/ディドロと野生人
4 野性的なものと蛮的なもの:『歴史研究』におけるギボンの活用

第二部 隠遁者,野生人,蛮人
第Ⅰ章 二つの予備的考察
1 野生児ピーター:savage と sauvage
2 蛮人としてのアメリカ先住民:〈黄金世紀〉スペインの自然法学的論争
セプルベダ/ビトリア/ラス・カサス
第Ⅱ章 16~18世紀フランスにおける野生人と蛮人
1 カニバルと自然法
コロンブス,ピエトロ・マルティーレとカニバルの誕生/16 世紀フランスにおけるカニバル/レリにおけるカニバルと自然法/モンテーニュにおけるカニバルと自然法
2 野生的であるとは何か?
モンテーニュによる二種の定義/偽語源 solivagus:キケロ的伝統と野生性
3 モラリストと野生人
17 世紀の道徳論における野生人の現前/ル・モワーヌにおける野生人/ニコルにおける野生人/パスカルは野生人を擁護するか?/野生的存在の両義的提示
4 モンテスキューにおける野生人と蛮人
共和国と蛮性/野生人と蛮人の共通性:「土地を耕さない人民」/森と二種類の自由/野生人と蛮人の差異Ⅰ:散在する狩猟民と集合する牧畜民/野生人と蛮人の差異Ⅱ:逃れ去る野生人と戦う蛮人/野生人と蛮人の差異Ⅲ:自然状態の近傍への滞留と国制の起源
第Ⅲ章 シャトーブリアンにおける隠遁者,野性人,蛮人
1 蛮人をめぐる論争
フランク人のトロイア起源説/ブーランヴィリエ=デュボス論争と自由主義の歴史家たち
2 シャトーブリアンにおけるフランク人:ブーランヴィリエとデュボスの間で
ブーランヴィリエに逆らって:フランク人と貴族の同一視の拒絶/ブーランヴィリエ説の肯定的利用:野生人から文明人への移行/ブーランヴィリエに逆らうティエリ:蛮人中の蛮人としてのフランク人の肖像/デュボスのフランク人観の採用:蛮的であること最も少ない蛮人/クロティルドの形象:「蛮性と人間性の解しがたい混合」/「ローマ=蛮人帝国」
3 シャトーブリアンにおけるガリア人とフランス人
ガリア人の肖像:社交性と蛮性の共存/フランス人と野生人/『諸革命論』のルソー主義:アテナイ人,スパルタ人とフランス人
4 「心的野生人」
「よきスキタイ人」と「よきスイス人」/「よき野生人」/野生人と自然法/原始主義の拒絶/中間状態の擁護/野生的なものの評価をめぐるルソー的曖昧さの継承/文明化の運動の擁護/歴史化される野生人
5 「移動する孤独」
文明世界の内なる野生人/革命期のトラピスト修道会とルネ
結  論

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内容説明

新世界の出現,啓蒙思想の展開,大革命やナポレオン戦争など波瀾の時代に著作活動をしたシャトーブリアン(1768-1848)の作品を素材に,反文明的な性格をもつ隠遁者,野生人,蛮人の三つの鏡に映った,ヨーロッパの文化と社会の複雑な様相を描き出す野心作。
古代ではギリシア語を解さない人々を蛮人(b?rbaroi)と呼んだが,中世では自然法を理解しない人,近代では都市的習俗に異質な外部世界の人々を蛮人とした。新大陸の住人やゲルマン諸族はどう扱うべきか。
非ポリス的なものがヨーロッパ内部に散在する諸個人として現れるとき,野性的(sauvage, wild)と規定される。アイルランド人は野生人であるというキリスト教社会の内部に存在する野生性をどう捉えられるか。
野生性の体現者として宗教的な隠者の存在。実際に隠遁者たち(solitarii)は森を住処とする都市的習俗を逸脱した人たちであるが,森においても文明との繋がりを保持していた。西ローマ帝国滅亡後,その文化は修道院に保存され,新たな統治者となった蛮人の習俗を穏和にする役割を果たしたのである。
シャトーブリアンは文明の理念を保持しつつ,歴史的起源としての祖先の蛮性を統合し,他方で社会に異質な野生性に見られる魂の卓越性に魅かれた。彼の心の揺曳にヨーロッパ近代の深い陰影が投影される。

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