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プラトンの公と私

プラトンの公と私
著者 栗原 裕次
ジャンル 哲学・思想
出版年月日 2016/10/15
ISBN 9784862852410
判型・ページ数 菊判・440ページ
定価 本体7,000円+税
在庫 在庫あり
 

目次

序章 プラトン哲学と公 - 私問題
 はじめに
 1 主題
 2 古典期アテネの公と私
 3 公私をめぐる四つの問題圏
  (1)人間論
  (2)政治哲学
  (3)幸福論と倫理学
  (4)「私」・「わたし」・「魂」・「自己」
 4 考察範囲の限定と本書の構成

 第Ⅰ部 プラトン初期対話篇

第1章 プロタゴラス「大演説」(Prt. 320c-328d)の公と私――ソフィストの人間理解
 はじめに
 1 ソクラテスの挑戦
  (1)アテネ市民の民会での振舞から(319b3-d7)
  (2)高名な政治家をめぐる事実から(319d7-320b3)
 2 神話と民主政
  (1)人間の誕生をめぐる神話(320c8-322d5)
  (2)分別(=真実を語らないこと)の意味(323a5-c2)
  (3)刑罰論(323c3-324c5)
  (4)結論(324c5-d1)
 3 理論的説明――ソフィスト流徳育が目指すもの
  (1)移行部:ポリスの存立とエゴイズム(324d2-325c4)
  (2)教育論(325c5-326e5)
  (3)二種類の徳とプロタゴラスの自己規定(326e6-328c2)
 むすび

第2章 ソクラテスの衝撃とプラトンの継承――『ソクラテスの弁明』篇と『ゴルギアス』篇
 はじめに
 1 ソクラテスの哲学と政治
  (1)ポリティカル・パラドクス
  (2)民主政アテネの公と私
  (3)ソクラテスの場所・アゴラ
  (4)ソクラテスと哲学
 2 『ゴルギアス』篇のソクラテス,そしてプラトン
  (1)「真の政治術」とは?
  (2)カリクレスの哲学観と政治観
  (3)カリクレスの勧告
  (4)ソクラテスの勧告
  (5)勧告の永遠の連鎖
  (6)プラトンの勧告:執筆活動の政治性
 むすび

第3章 『メネクセノス』篇における公と私――〈自由〉概念の創出
 はじめに
 1 対話篇の主題と冒頭部(234a-236d)の意味
  (1)葬送演説の特異性と公私の問題
  (2)すぐれた葬送演説の二つの要件
  (3)演説を書く意味
 2 エパイノス(237b-246a):〈アテネ〉とは何か
  (1)高貴な生まれ(237b-238b)
  (2)よき養育とポリテイア(238b-239a)
  (3)歴史的偉業(καλὰ ἔργα)(239a-246a)
 3 パラミュティア(246b-249c):友愛の根拠たる徳
  (1)息子への励まし(246d-247c)
  (2)両親への慰め(247c-248d)
 4 ペリクレスの葬送演説との比較
  (1)ペリクレスの葬送演説
  (2)二つの演説の比較
 むすび

 第Ⅱ部 『ポリテイア』篇:公私の調和的結合の生へ

第4章 序(第1巻)――公私混合の生のイメージ化
 はじめに
 1 私人ケパロスの正義
  (1)老年
  (2)富
  (3)ケパロスの公私観
 2 正義と共同性:ポレマルコスの場合
  (1)第1議論(331e5-334b6)
  (2)第2議論(334b7-e7)
  (3)第3議論(334e8-336a8)
 3 公と私の混合:トラシュマコスの場合
  (1)トラシュマコスの理論
  (2)トラシュマコスの大演説
  (3)トラシュマコスの本音の吟味
  (4)結論:〈はたらき(ἔργον)〉からの論証
 むすび

第5章 問題と方法(第2巻)
 はじめに
 1 「グラウコンの挑戦」
  (1)善の三区分と二つの問
  (2)正義の本性と起源
  (3)ノモスとピュシス
  (4)「ギュゲスの指輪」
  (5)「個人」の利益
  (6)生の判定
  (7)アデイマントスの補足
  (8)結論
 2 「ポリスと魂の類比」という方法

第6章 公私の分離:正義論(第2-4巻)
 はじめに
 1 理想的なポリスの建設:あるべき公の創造(第2巻)
  (1)四,五人からなる最も必要なものだけのポリス
  (2)真実のポリス
  (3)「一種健康なポリス」内での暮らしぶり
  (4)熱でふくれあがったポリス
  (5)戦争の発生と守護者の要請
 2 初等教育論(第2・3巻)
 3 〈市民の誕生〉をめぐる物語(第3巻)
  (1)〈市民=同胞〉説
  (2)金属の神話
  (3)神の命令と「生まれ」の意味
  (4)神話の受容
 4 守護者の「幸福」(第3・4巻)
  (1)守護者の暮らし
  (2)アデイマントスの疑問
  (3)全体の幸福と部分の幸福
  (4)ポリス建設完了まで
 5 公的な徳(第4巻)
  (1)知恵(428b-429a)
  (2)勇気(429a-430c)
  (3)節制(430d-432b)
  (4)正義(432b-434c)
 6 魂論と私的な徳(第4巻)
  (1)移行部(434d-436a)
  (2)魂の三部分説(436a-441c)
  (3)魂における諸徳の定義(441c-444c)
  (4)正義と幸福(444c-445e)
 むすび

第7章 公私の統一(第5巻)
 はじめに
 1 第一の大波
  (1)概略と「慣習」からの反論(451c-452e)
  (2)可能性(452e-456c)
  (3)最善性(456c-457b)
 2 第二の大波
  (1)現実からの遊離(457d-458b)
  (2)法制化と法の最善性(458b-466d)
  (3)実現可能性
 むすび

第8章 公私の結合へ:第三の大波(第5・6巻)
 はじめに
 1 「第三の大波」導入部――理想から現実へ(第5巻)
 2 現実のポリスへの視線――哲人支配のパラドクス(第5巻)
 3 哲学者とは誰か(第5巻)
 4 哲学者「役立たず」論――「船の比喩」(第6巻)
  (1)哲学者の本性論
  (2)「船の比喩」
 5 哲学者「大悪党」説――堕落論(第6巻)
  (1)堕落論1:大衆の影響力
  (2)堕落論2:私的影響力
  (3)自称「哲学者」たち
 6 哲学者の生きる道(第6巻)
 7 〈善〉のイデアの学び(第6巻)
  (1)最善のポリテイア
  (2)大衆と哲学
  (3)哲学者による支配
  (4)最大の学問対象:〈善〉のイデア
  (5)「太陽の比喩」と「線分の比喩」
 むすび

第9章 「洞窟の比喩」(第7巻)
 はじめに
 1 「洞窟」の内と外
  (1)比喩の内容
  (2)比喩の解説
  (3)民主政「洞窟」の構造
 2 哲学者の「洞窟帰還」問題
  (1)問題
  (2)正しい人への正しい要求(519e1-520e3)――私人としての生 vs. 市民としての生
  (3)真の哲学者の生とは?(520e4-521b11)
  (4)むすび
 3 教育による最善への接近
 むすび

第10章 公私の分離・混合・綜合:不正論(第8・9巻)
 はじめに
 1 不正なポリスと不正な人(第8・9巻)
 2 不正な生の選択(第8・9巻)
  (1)ドクサの内化による性格形成
  (2)〈不正な人間〉の生成
  (3)ヌースを欠いた魂
  (4)むすび
 3 生の判定(第9巻)
  (1)公と私の分離と綜合
  (2)僭主政的人間の不幸
  (3)「真の僭主」の不幸
  (4)「真の哲学者」という見本
 4 〈自分のポリス〉の建設(第9巻)――公私結合の生に向けて
  (1)魂のイメージ化(588b-589c)
  (2)不正礼賛者に対する説得(589c-591a)
  (3)ヌースをもつ人の洞察(591a-592a)
  (4)哲学と政治(592a-b)
 むすび

第11章 ポリスに生きる人間(第10巻)――その永遠の生
 はじめに
 1 詩人追放論:教育論の行方
  (1)〈現実〉への眼差し
  (2)模倣とは何か:イデア論からの考察
  (3)詩人と大衆
  (4)公的教育者としての詩人
  (5)魂論への展開
  (6)「立派な人」の問題
  (7)哲学者の〈信〉
 2 エルの物語:永遠の生を語る意味
  (1)不死なる魂の本然の姿
  (2)生前における正義の報酬
  (3)エルの物語
  (4)むすび

終章
  (1)人間観
  (2)政治哲学
  (3)倫理学
  (4)魂論
  (5)プラトンの公と私:詩人哲学者としての生

あとがき
初出一覧
参考文献
人名事項索引
引用出典索引
Table of Contents / English Summary

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内容説明

紀元前5-4世紀のアテネでは公と私の緊張・対立が政治的にも倫理的にも取り組むべき火急の課題であった。本書は初期対話篇の四篇と『ポリテイア(国家)』篇を中心にプラトンの人間観,政治哲学,倫理学,魂論に注目し,公と私とは何か,その関係はどうあるべきかを問う。

ポリスのために死んだ戦士を称える「葬送演説」は公を私より優先させるが,ソクラテスが披露する演説はポリスのあり方を「自由」において捉え,自由の根本を市民一人ひとりの個の確立に見て,私を公に優先させる。また「真の僭主」は最大の不正と最大の不幸を体現するが,「哲人王」はそれと対蹠的なあり方を示す。

本書はこれらさまざまな事態について,従来閑却されてきた「公」「私」の対立概念に光を当て総合的に考察する。プラトンは同時代の公私観を吟味・批判し,概念を捉え直し,新たに独自の公私観を構築した。

プラトンは〈一対多〉の人間関係を基礎とする民主政の公的世界に新たな読書空間を創造し,著者と読者が〈一対一〉の対話を通して共同探求する機会を設けた。民主政ポリスを支える市民が自分の考えをもつことが,草の根的にポリスを変容させる源泉となる。それらの営みは時と場を超えて遥か現代にまで響いてくるに違いない。

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