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聖書解釈者オリゲネスとアレクサンドリア文献学

復活論争を中心に

聖書解釈者オリゲネスとアレクサンドリア文献学
著者 出村 みや子
ジャンル 哲学・思想
宗教
出版年月日 2011/06/20
ISBN 9784862851116
判型・ページ数 菊判・302ページ
定価 本体5,500円+税
在庫 在庫あり
 

目次

序論
問題の所在/オリゲネス研究史の回顧/オリゲネス研究の新たな展開/本書の構成

第1章 オリゲネスとアレクサンドリア文献学
Ⅰ 初期キリスト教とアレクサンドリア
古代都市アレクサンドリア/最初期のアレクサンドリア教会に関する資料/オリゲネスとアレクサンドリア文献学
Ⅱ オリゲネスとアレゴリー解釈
アレクサンドリアの聖書解釈の系譜/オリゲネスの聖書解釈の方法/「サラーハガル伝承」の解釈/オリゲネスのパウロ引用(ガラ4: 21-24)/アレゴリー解釈から転義的解釈(トポロギア)へ

第2章 オリゲネスの復活理解とギリシア思想
Ⅰ 『ケルソス駁論』における論争の問題
『ケルソス駁論』の成立の経緯/『ケルソス駁論』における論争的手法/『ケルソス駁論』における修辞的手法
Ⅱ 復活をめぐる論争と聖書解釈
「黄泉帰り」と「甦り」/福音書の復活物語は幻覚の産物か/魂の不滅か,身体の復活か/「変化」の概念の論争的意義/オリゲネスとプラトン主義

第3章 オリゲネスと初期キリスト教の復活理解
Ⅰ 初期キリスト教の復活論とグノーシス主義
復活に関する証言とオリゲネス/新約聖書の復活理解とユダヤ教の黙示思想/反仮現論モティーフとその展開/肉体の復活信仰と殉教
Ⅱ オリゲネスと反異端論者のグノーシス主義論駁
パウロ書簡の受容の問題/反異端論者の論争の特徴/反異端論者の傾向性と論争の争点/正統的教会の復活理解の一定式/『諸原理について』における復活定式の使用/『諸原理について』成立の経緯と反異端論争

第4章 オリゲネスの復活理解と反グノーシス主義論争
復活・顕現伝承理解と霊的解釈法(アナゴーゲー)/「エピノイア論」/オリゲネスとアレクサンドリアの聖書伝承/『ヨハネ福音書注解』における反グノーシス主義論争/『マタイ福音書注解』における「パウロ主義」

第5章 オリゲネスの聖書解釈とユダヤ教
オリゲネスと反ユダヤ主義/オリゲネスのヨセフス引用/オリゲネスの福音書解釈と反ユダヤ主義/『ヘクサプラ』の編集意図

第6章 オリゲネス神学が異端とみなされた経緯
アレクサンドリア退去問題/禁欲主義の隆盛とオリゲネス主義/エピファニオスの『パナリオン』と反異端論の系譜/『パナリオン』64における「異端者」像/オリゲネスの復活論批判/「球体の体」の問題/オリゲネスの神学的遺産と「テクスト共同体」

結論

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内容説明

オリゲネス(185-254年頃)の時代,初期キリスト教は未だ確固とした地位を得られぬ非合法宗教と見なされ,周辺世界から様々な批判を受けていた。彼はアレクサンドリアで聖書解釈を通してそれらの批判に答え,キリスト教のアイデンティティーの確立に努めた。
アレクサンドリアは多様な文化と宗教の出会いの場として異質文化の混交・融和を成し遂げ,とくに古代図書館を中心とした文献学の一大発展地であった。オリゲネスは,アレクサンドリアの文献学的方法を継承し,「聖書を聖書によって解釈する」という内在的聖書解釈の方法を駆使し,後の教会史における聖書解釈を方向づけた。
本書はヘレニズム思想,グノーシス主義,ユダヤ教との競合関係の中で生み出されたオリゲネス復活論の成立と特徴を,聖書解釈の方法に焦点を当てて考察,オリゲネスの思想とその時代の全体像に迫る画期的業績である。
彼の復活論争は,キリスト教の復活理解が不合理な教えではないこと,当時のヘレニズム世界の死生観を聖書に基づくキリスト教の視点で置き換えることを意図した。それは読者を正しい聖書解釈に導きその最終判断を読者に委ねるものであった。彼の復活理解はギリシア思想の二元論とも,グノーシス主義の脱身体論的救済論とも違うばかりか,初期キリスト教の正統的教会が展開した復活の肉体性を強調するのとも異なる,パウロの影響を受けた「終末論的様態変化」であった。また著者は,後に聖書解釈の一元化が強まる中で解釈の余地を残す彼の方法が批判され,異端宣告される経緯を明らかにする。

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