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感覚の記憶

発生的神経現象学研究の試み

感覚の記憶
著者 山口 一郎
ジャンル 哲学・思想 > 現象学
出版年月日 2011/12/15
ISBN 9784862851222
判型・ページ数 A5・346ページ
定価 本体5,500円+税
在庫 在庫あり
 

目次

はじめに
序 論

第Ⅰ部 脳神経科学と発生的現象学の問題設定

第一章 ミラーニューロンと相互主観性論
ミラーニューロンの発見とその理論的解釈/ミラーニューロン説と他者論/発生的現象学における相互主観性論とミラーニューロン説/他者論をめぐる神経現象学の課題と記憶と感覚の問題

第二章 B・リベットの『マインド・タイム』の再考と「記憶と感覚」に関する問題設定
意識が生じるための持続時間の解明/創発による意識の生成?/意識の遅延説と発生的神経現象学の課題

第三章 記憶の脳科学研究
記憶の分類と三つの過程/手続き記憶/ワーキングメモリー/海馬における記憶/記憶と意識・無意識の問題/記憶と情動

第Ⅱ部 記憶と感覚の発生的神経現象学

第一章 フッサール発生的現象学の方法論と「記憶と感覚」という課題設定
脳科学の方法と発生的現象学の方法/無意識の志向性の明証性の問いと無意識の現象学の確定/間モナド的コミュニケーションを起源にする記憶と感覚/ライプニッツとフッサールのモナド論/フッサール時間論における「記憶と感覚」の解明

第二章 個別的感覚質(クオリア)の生成
発生的現象学における個別的感覚野の生成/感覚記憶の生成/運動記憶と運動感覚の生成

第三章 関係性を生きるセラピー
脳性麻痺児のリハビリテーション/左半側麻痺のリハビリテーションをめぐって

結 論

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内容説明

「疲れ,二日酔いの不快感」といった身体の感覚や「恋人の眼差し」の記憶など,特定の感覚内容や記憶内容の意味はいかに生成されるか。この問いについて,発生的現象学の立場から,脳科学が脳の機能として「感覚と記憶」を解明してきた成果を受け止め,さらに科学的制約を超えて哲学独自の可能性に挑戦する。
デカルトの意識の明証性を継承したフッサールは,精神と物質に還元できない感覚を,「日常経験」の解明をとおして感覚内容の意味の生成として問うた。感覚という経験は感覚内容の持続と変化として経験される。視覚にしろ,聴覚,触覚にしろ,時間持続として意識されないかぎり,具体的に経験されることはない。瞬時に感じられる感覚とは,イデアとしての点に固執する科学者や哲学者の抽象的観念の産物に過ぎない。
自然的時間意識に対して特定の感覚内容が始まり,経過していく持続する内的時間意識によって感覚内容の持続と変化を解明する。感覚の持続を可能にする意識のあり方が「過去把持」という志向性の働きである。著者は無意識に働く「過去把持」を軸にして人知れず無意識世界で展開する感覚と記憶のメカニズムを明らかにし,科学的成果を吸収した現象学の可能性を拓く。

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