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力動性としての時間意識

力動性としての時間意識
著者 武藤 伸司
ジャンル 哲学・思想 > 現象学
出版年月日 2018/12/25
ISBN 9784862852885
判型・ページ数 A5・348ページ
定価 本体5,000円+税
在庫 在庫あり
 

目次

凡例
序論

   第Ⅰ部 フッサールによる時間意識の現象学

第一章 時間意識の本質規則性としての過去把持
 第一節 時間意識分析の始まり
  (1)時間意識の現象学的な記述の始まり
  (2)ブレンターノの時間論に対するフッサールの批判
  (3)マイノングの時間論に対するフッサールの批判
  (4)持続的な意識位相に関する二重の持続体の構成
 第二節 時間意識分析の方途
  (1)現象学的還元の萌芽――ゼーフェルト草稿の考察
  (2)時間意識の現出論的な分析
  (3)原意識という内的意識の性質
  (4)感覚与件と絶対的意識
 第三節 過去把持の発見
  (1)感覚の問題と統握‐統握‐内容図式の崩壊
  (2)意識の含蓄性としての過去把持
  (3)交差志向性と延長志向性

第二章 未来予持と受動的綜合
 第一節 過去把持と未来予持
  (1)未来予持の含蓄性――特有な志向性としての過去把持と未来予持
  (2)未来予持の特性――空虚性と不充実性
  (3)未来予持の傾向
  (4)過去把持と未来予持による意識の展開――充実の段階的な移行
  (5)未来予持と触発
 第二節 時間意識の構成と受動的綜合
  (1)未来地平と過去地平における空虚表象
  (2)空虚表象の覚起と連合
  (3)受動的綜合における触発

第三章 意識の駆動力としての衝動志向性
 第一節 相互覚起と衝動
  (1)感覚与件と空虚表象との相互覚起による対化
  (2)原触発と衝動志向性――意識の根源的な駆動

   第Ⅱ部 ヴァレラによる時間意識の神経現象学

第四章 認知科学とヴァレラの神経現象学
 第一節 認知科学の方法論
  (1)計算主義と結合主義
  (2)アフォーダンス
  (3)イナクション
  (4)力学的認知観――システム間のカップリング
 第二節 認知科学に対する哲学的な方途
  (1)還元主義
  (2)神秘主義
  (3)機能主義
  (4)現象論(phenomenology)と現象学(Phänomenologie)
 第三節 現象学的還元に対するヴァレラの見解

第五章 現象学の自然化の問題
 第一節 認知科学と現象学の相互制約
 第二節 現象学の自然化と領域的存在論
  (1)現象学の自然化とは何か
  (2)現象学による自然主義批判
  (3)「自然」の構成に関わる身体性の現象学的な考察
  (4)物理学ないし数学という学問への理念化
  (5)現象学の自然化の前提となる領域的存在論と意識分析の手引き
  (6)現象学の自然化を遂行するための諸条件

第六章 時間意識に対する神経現象学の展開
 第一節 神経ダイナミクスと過去把持
  (1)時間意識における多重安定性とその連続的な移行
  (2)神経細胞の時間
  (3)非線形的な神経ダイナミクス
  (4)神経ダイナミクスと過去把持の相応
 第二節 神経ダイナミクスと未来予持
  (1)意識の傾向――未来予持と情動トーン
  (2)神経ダイナミクスのフィードフォワード
  (3)神経ダイナミクスの駆動としての力学的なランドスケープ
 第三節 ヴァレラによる新たな時間図式の考察
  (1)延長志向性による一方向的な流れと交差志向性による循環的な発生
  (2)二重の志向性の相互依存性と不可分離性――パイこね変換による理解
  (3)神経現象学的な時間意識分析という研究プログラムの成果と意義

結論

あとがき
文献表
索引
欧文目次

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内容説明

時間とは何か。時計や季節,天体運動に関わる客観的な時間に対し,意識で体験される時間すなわち時間意識とは何か,これが本書の主題である。最もラディカルに時間を探究したフッサール現象学における時間意識論を精査し,意識の活動が時間意識的な構成を必然的かつ根源的に伴うことを解明する。

第Ⅰ部はフッサールの生涯にわたる時間論の核となる過去把持という特有な志向性を検討する。過去把持の理解こそフッサール現象学を理解する分水嶺であり,要の概念と言える。次に未来の意識構成に関わる未来予持という志向性を考察する。未来予持は時間意識の全体を構成する重要な要素であるだけでなく意識の発生に関わり,さらに無意識になされる感性的な領野への分析に導き,フッサールの中後期への思索の転換をもたらした。

第Ⅱ部はフッサール現象学を認知科学に応用したヴァレラの神経現象学を検討する。それは「現象学の自然化」を意味し,現象学で一人称的に記述された体験を,物理学や数学モデルで理解する試みである。著者は現象学の自然化の可能性を批判しつつ,現象学と認知科学との相互制約と相補性による共同研究を提案する。

時間意識の構成は意識自体の力動性として理解されるという独自の視点から,「時間とは何か」に応えた気鋭による最先端の業績である。

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